近年、AI技術の進歩により、驚くほど精巧なフェイク偽写真が生成できるようになっています。まるで本物のような画像が簡単に作れるため、真実の情報と虚偽の情報を区別することが難しくなっています。これは、個人や社会にとって深刻な問題です。
This is a very serious problem for both indivisuals and society.
まず、本物とは何でしょう?
What is the real thing?
この問いは、古くから哲学者や思想家によって議論されてきたといいます。単純な答えはありませんが、一般的に本物とは、偽物や模倣品とは異なり、本来あるべき姿や性質を備えているものと理解されています。
簡単に言えば、私たちの身の回りの自然界にある、植物や動物が、「本物」の代表でしょう。
AIによる偽写真は、私たちの現実認識をゆがめ、真実を信じることが難しくなります。例えば、政治家のスキャンダルを捏造した画像が拡散され、選挙結果に影響を与える可能性があります。
また、商品の写真が実際のものよりも良く見せかけられ、消費者を欺く可能性もあります。
では、子供たちに本物を見抜く力をつけるために、どのようにしたらよいでしょうか?
How can I give children the ability to see through the real thing?
AIによる精巧なフェイク写真が作られる時代なった今、かつて、私が子供のころに聞いた話を思い出します。
「質屋」というお店で働き始めた、15歳前後の子供に、仕事を覚えさせるための指導方法についてです。
質屋に持ち込まれた品物の価値、値段を決めるには、本物かどうかを見抜く力が欠かせませんよね。ですから新しい見習い店員には、最初は安いものは決して見せず、本物だけ、いい品物だけを見せ、扱わせたそうです。
本物のダイヤだけ、あるいは高級品だけを見せ、触らせ、偽物のダイヤとか安いものには、まったく触れさせなかったといいます。
なぜでしょう。
本物だけを見て、触わって何年も続ければ、自然と本物と偽物の違いが分かるというのです、
昔の人の知恵はすごいですね。
How amazing the wisdom of people in the past is!
あの俳諧の巨匠と言われる、松尾芭蕉の言葉に、「松のことは松に習へ、竹のことは竹に習へ」があります。「よく見て、よく観察しなさい」という意味ですよね。
Learn bamboo from bamboo, and learn pine from pine.
本物を見抜く力をつけるには、昔の人の知恵に従うことも、あり ですね
小さいうちから本物を見て育つことが一番と、言えるのではないでしょうか。もう少し詳しく見ていきましょう
五感を通して本物を知る
子供たちは、大人も同じですが、五感を通して世界を学びます。本物に触れるということは、その質感、音色、香り、味などを実際に体験しているわけです。
例えば、美術館で本物の絵画を見て、絵筆のタッチ、キャンバスの質感、色彩の微妙な変化など、肌で感じることができます。すごい感動を受けます。
できるだけ多くの本物に触れる
子供たちが本物に触れるために、美術館や博物館を訪れ、コンサートや演劇を鑑賞し、あるいは、自然の中で過ごすことなどがとても大切です。
ちょうどこの原稿が出来上がったころ、テレビ番組「博士ちゃん」が放映されていました。葛飾北斎に詳しい博士ちゃんが出ていました
ドイツのライデン市に住む、北斎の研究家、マティナ博士を訪ねた様子が流れていました。見た人もいらっしゃるかと思います
マティナ博士所蔵の、世界に3つしかない北斎の初摺りの版画を、見せてもらっているところです
70歳位のマティナ博士に、「どうぞ触っていいですよ」と言われて、少年博士ちゃんは、本物の版画に触って、
「すごいです!ざらざらしていて紙自体も凸凹しているんですね!」と興奮気味でした
マティナ博士は、「触って始めて質感や、手ざわり感が得られ、気づきが得られるんですよ、違いによく気付きましたね」と言っていました
私も学生時代には、本物に接することを心掛けていました。
ロシアのノボシビルスク・バレエ団による「白鳥の湖」。
鍵盤の王者、アルトール・ルービンシュタインのピアノ演奏など、
本物に接し、すごく感動したことを思い出します。
本物は心に響きます。この体験こそフェイクを見抜く基盤となるのではないでしょうか。
AI技術の進化は、私たちに多くの恩恵をもたらしていますが、同時に新しい課題も生み出しています。
本物を見分ける力は、子供たちが将来、社会の中で自立して生きていくために必要なものです。
幼い頃から本物に触れる経験を積み重ねることで、豊かな感性と判断力が育まれ、フェイクと本物を見分ける力がついてくる、と言えるのではないでしょううか